客室乗務員(CA)は接客業であるので「クレーム」はつきものですね。

どんな職業であってもお客様からのクレームをお受けするのは、客室乗務員(CA)と言えども人間ですので正直なところ気が引けます。クレームはできるだけ避けたいと思っていても、お客様からお受けするクレームを対応するのもお仕事の一部であるので、きちんと対応しなくてはいけません。

では、接客のプロとも言える客室乗務員(CA)は、飛行機の中でどのような対応をしているのでしょうか。

1.客室乗務員(CA)へのクレームは多い?

悪天候や台風で飛行機が遅延している時や欠航になってしまった時に、空港内で各航空会社サービスカウンターにて、お客様がクレームを訴えているイメージは誰しも想像がつきます。払い戻しや振替便の手配など、飛行機が飛ばないので、クレームが出てしまうのは致し方ありません。

では、機内でどのようなクレームがあるのでしょう。

クレームの数は?

私の経験からいいますと、お客様からのクレームは意外と少ないものです。

本当はお客様の中には、クレームを言いたいことはたくさんあるのかもしれません。しかし、お客様の中でクレームをあげられることは、滅多にありません。大きなクレームというほどのご指摘をお受けするのは、客室乗務員一人当たりで言うと年に1度あるかないかではないでしょうか。

お客様からのリクエストレベルのご要望であっても、年に数回程度お受けするほどなのです。だからこそお客様から頂いたクレームは、大変貴重なご意見とも言えるのです。

クレームは突然やってくる?

クレームは予期せぬ時に起こります。客室乗務員(CA)はみな同じレベルのサービス技量に達するよう訓練を受けます。車の運転免許証を習得するために、教習所で技術とルールを学ぶのと同じです。しかし、どんなにルールを守り安全運転を心がけていても、時折思いもよらないミスをしてしまい、交通事故を起こしてしまいます。

このように、クレームもお客様のことを第一に考えてサービスしていても、ミスをしてしまったり、お客様の思いとは違う方向に動いてしまうこともあるのです。

2.客室乗務員(CA)へのクレームで多い内容は?どんなときにクレームは起こる?

それでは、CAへのクレームはどのようなものが多いのでしょうか?実際の事例をあげてご紹介してみましょう。

CA時代に経験したクレーム事例1 ~飛行機出発到着遅れ~

クレームのトップは、飛行機の出発到着遅れです。これは、弁解の余地がないぐらいに定時運行を期待されているお客様にご迷惑をおかけしてしまうことです。

そもそも、数ある交通手段の中で飛行機を選んでくださる理由の一つに、「移動時間が速いこと」があります。それなのに、前便の飛行機の到着が遅れて2時間も待ち、更に到着が1時間も遅れるとなると、「新幹線で移動したほうが早かったではないか!高いお金出したのに!」とお客様からクレームがあがるのも仕方がありません。

CA時代に経験したクレーム事例2 ~天候不良による機内サービス不実施~

悪天候でタービュランスがひどい場合は、CAもベルト着用サイン点灯中は着席していないといけないので、機内サービスが全くできない時もあります。

現在はLCCの航空会社では、機内サービスは有料であるので、サービスがないという状態も認知されつつあります。しかし、上空でドリンクサービスなどを楽しみにしているお客様もいらっしゃいます。そのようなお客様にとって、機内サービスが全くない状態はつまらないものです。

安全面のために、上空でサービスできないのですが、飛行機に乗ることを楽しみにしてくださるお客様には大変申し訳ないことです。

CA時代に経験したクレーム事例3 ~シートベルト着用拒否~

飛行機の遅れ、サービス不実施に対するクレームの次に多いのが、シートベルト着用拒否をされるお客様です。

このシートベル着用拒否をされるお客様は、ご搭乗から離陸までの短時間にクレームをおっしゃいます。極めて素早く対応しないといけないクレームの一つです。しかし、お客様の中には、どうしてもシートベルトをしたくないと言われる方もいます。

そのような時は、たとえ飛行機が滑走路に向かっていたとしても、機長に連絡をしてスポットに戻ります。お客様に再三お願い申し上げても、聞き入れて頂けない場合は飛行機を降りて頂くことになるのです。

3.客室乗務員(CA)がクレームを受けたらどんな対応を??

それでは、CAがクレームをお受けした場合どのような対応をしているのでしょう。CA流のクレーム対応術を見てみましょう。

クレーム対応のコツ1 立ち位置

人と人が面と向かって対面する形では、敵対心を相手のお客様に抱かせてしまいます。お相撲でも空手でも勝負をする時は最初に真正面に対面してしまいます。人が誰かと親しくなりたい時、友好な関係を結びたい時は、斜めの位置にいると良いと言われています。テーブルで言うと、90度のコーナーになる位置です。

クレーム対応のコツ2 目線

クレームをお話しされるお客様よりも、なるべく頭の位置が低くなるようにします。

例えば、キャビンの通路をパトロールしている時にお客様からクレームをお受けしたなら、お客様が着席されていて、CAが立っている状態になっています。CAが上からお客様を見下げてしまうことになります。

そのようにならないよう、通路にしゃがみお客様の視線がCAを下に見えるようにします。

クレーム対応のコツ3 表情

いつもニコニコ微笑んでいるCAであっても、クレームをお受けしている時は、心から申し訳ないという表情をしましょう。決してクレームを受けることが、「嫌だな。面倒臭いな。」という表情をしてはいけません。もちろん泣いてはいません。

クレーム対応のコツ4 あいづち

お客様のクレームに対して、反論や言い訳をすることなく、まずはご意見をしっかりと聞き共感します。お客様のクレームは、お客様はクレームをCAに伝えることで解決することもあります。

お客様は、ご自分の気持ちが伝わっているかどうかわからないと、ずっとクレームを言い続けられることがあります。そのために、しっかりとお客様のご意見にあいづちを打ちながら聞くと良いでしょう。できれば、お客様の言葉をオウム返しのように繰り返します。

例えば、「座席の窓から、翼が邪魔して外が見られない。」ということであれば、「お客様のお座席からお外が見えないのですね。」とお答えします。そうすると、お客様はCAに外が見えないことが伝わったと、理解することができます。

クレーム対応のコツ4 メモを取る

お客様のクレームをオウム返しで繰り返しながら、それをメモするようにします。それにより、より一層お客様の意見がCAに届いたとわかりやすくなります。また、そのメモを見て、クルーにお客様のご意見をしっかりと共有することができます。

お客様にとって、自分の意見を聞いてくれて、受け入れてくれるという姿勢を見せることが、クレームを上手に対応するコツなのです。

4.客室乗務員(CA)は、こんなクレーム対応はしない!

クレーム対応で、失敗してしまう時はどんな時でしょう。クレームを言われたお客様をさらにご立腹させてしまう対応をご紹介しましょう。

やってはいけないクレーム対応例「言い訳」

これだけはやってはいけない対応 No.1は「言い訳」です。

使用する飛行機の到着が遅れてしまったのは、CAのせいではありません。しかし、使用する飛行機が遅れてしまったために、お客様の出発並びに到着が遅れてしまった事実は変わりあまりません。飛行機の到着が遅れたことを言い訳にしても、お客様にご迷惑をおかけしていることは確かなことなのです。

正当な理由があったにしろ、お客様が不快なお気持ちになっているので、クレームがでるのです。そんな時に、自分たちを正当化するためにいきなり「言い訳」をしてしまっては、お客様はさらに不愉快に感じられてしまいます。

やってはいけないクレーム対応例「ひたすら謝る」

クレームに対しては、謝れば済むということではありません。確かに「謝る」ことも必要です。でも、お客様は謝ってもらうことが目的ではないのです。自分が感じた不快なことを、改善することを望んでクレームを言ってくださいます。

自分の言っていることをCAに言えて、尚且つ気持ちを理解して、次への改善を望んでいるのです。だから、ただひたすら謝るだけでは、お客様は本当にわかっているのか?と余計にご立腹されてしまいます。

できないこと、はっきり分からないことは断言しない

お客様に対して誠意ある対応をするために、きちんとしたお答えをすることが大事です。中には自分だけでは、対応できないクレームの場合もあります。

機内で起きたクレームを、そのまま到着地の空港係員に引き続くこともあります。機内でこんな風に言われたのに、地上ではまた違うことを言われたとなると、さらにお客様を怒らせてしまいます。ハッキリとわからないことは、お客様にお伝えしないようにしましょう。

5.クレームを未然に防ぐ為にCAが心がけていること

クレームは誰でも受けたくないものです。クレームを受けないようにするために、好感度を上げるためにはどうしたらよいのでしょう。また、クレームを未然に防ぐ心がけはあるのでしょうか。

髪型、身だしなみ

形は心の表れだとも言われています。心が乱れていると、服装や髪型も乱れてきます。正しく美しく見えるように、また心を正すためにも、服装をきちんと整え、髪もスッキリとまとめましょう。

だらしなくしていると、お客様にも不快感を与えてしまいます。飲食店で、髪の毛をダラーと垂らしている店員さんに、ラーメンを運ばれてくると、ラーメンに髪の毛が入らないかとハラハラしてしまいます。不潔感を得ますよね。

身なりを整えて、隙のない姿を見せることで、お客様も好感を持っていただき、心穏やかにしていただけます。

お客様の表情や行動

クレームを未然に防ぐためには、CAの気づきの能力が必要です。

コーヒーをこぼして火傷したり、衣類を汚してしまうことを防ぐためには、揺れのひどい時は前もってカップに蓋をしてお渡しすることもできます。「揺れがひどいので、少なめにコーヒーを入れております。おかわりできますので、その時はお声掛けください。」と一言添えて、量を減らしてお渡しすることもできます。

上の棚にお客様のワインの瓶が入っていることにCAが気が付けば、便が割れることを防ぐために、お客様にお声掛けして前の座席下に収納することができます。キャビンパトロール中に、お客様の顔色が悪ければ、お声掛けすることで急病に対応することができます。

CAの気づきによって、クレームを減らすことはできるのです。

6.客室乗務員(CA)はクレームを苦情ではなく、要望と受け止める!

CAがお客様から実際にお受けするクレームの件数はそんなに多くはありません。なかなかお客様も面と向かって、お指摘を言ってくださらないものです。

だから、お客様からのクレームを頂けるということは、生のお客様のお気持ちをお聞きできる絶好の機会であるのです。

クレームは苦情ではなく、お客様の「ご要望」

お客様からクレームを頂くということは、お客様が自分たちに改善を希望しているし、期待して頂いているということでもあるのです。もう二度と利用したくないという場合には、クレーム言う労力ももったいないし、言う必要もなくなってしまいます。黙って利用しないというお客様は多いのです。

お客様から頂けるクレームは、今後に生かせるご要望であり、サービス向上のチャンスを与えられているのです。

クレームがあるから改善点が分かる

お客様のお気持ちやご要望はなかなか聞き取ることができません。アンケートを取っても、改善点を書いてくださるとは限りません。

お客様のクレームは、心地よいサービスの改善につながります。自分たちが毎日当たり前のように行っていると、何が間違いか何を改善したらよいかわからなくなることもあります。習慣化されることで、気が付かないでやっていることも出てきます。

お客様のクレームは、そんな私たちに「気づき」を教えてくださるありがたいお言葉なのです。

まとめ

クレームと聞くと、マイナスのイメージがありますよね。できればクレームを受けないで済むようになりたいものです。しかし、クレームをよく受ける人が、サービスが悪いかというとそうでないこともあります。お客様も人を選んでクレームを言っています。この人なら、クレームを言っても聞いてくれそうだなという人に、クレームを言うのです。

あなたがクレームを受けることができたなら、お客様にとってあなたは話しかけやすい雰囲気を持っていたということなのです。

だから、自信を持って、誠意を持ってクレームの対応をしましょう。お客様はあなたの人格を否定しているわけでもなく、あなたや会社に期待をしているからこそ、クレームを言ってくださるのですから。